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東京都立高校・学校図書館における業務委託の実態【2021年度】

東京都立高校の学校図書館の民間委託は、2011年度から順次進められ、2021年度で11年目となる。だが、当初から受託企業の不手際が起き、今でも健全な運営ができているとは言い難い。人手不足が最大の要因だが、そこにはノウハウのない異業種業者が寡占している背景がある。以前に運営していたブログでも、この話題には何度か触れ記事にした。今回も最新の情報を交えながら現状を書いてみたい。

現在、都立高校全校の3分の2程度の学校図書館が民間業者に委託されている。全体を3つの地域にグループ分けし、更にその地域で8~15校の複数グループに細分化する。契約期間はグループで異なり、1年~3年となっている。

契約は競争入札で決める方式で、東京都財務局経理部が担当する。入札はオンラインの電子入札で行われ、価格点+技術点(業務やサービス向上の提案内容、会社の財務状況、実績など)で評定し、他社と同点の場合はクジ引きで決める。以前は総価契約として委託料が一括して支払われていたが、業者の人員不足で開館できない不履行事態のトラブルが相次ぎ、2017年度から開館日数に応じて支払われれる単価契約となってしまった。

実際に受託している業者は、ビルの管理や清掃などを事業とする業者ばかりが独占している。だが、業務不履行や人員の適正な配置が杜撰(ずさん)なため、2020年度になると直営へ戻す動きが出てきた。

まずは、2019年度~2021年度の3年間の入札結果を見てみたい。東京都入札情報サービスで閲覧した情報を基に、落札金額、入札参加会社名と業種、採用・落選・辞退の結果を明記してみた。なお、学校名はグループ代表校のみ表記され、それ以外は「外」という表記が使用されている。

【2021年度・令和3年度】
入札経過 東京都財務局経理
◆都立向丘高等学校外8校
落札金額 61,168,173円
[○採用] エースシステム(ビル清掃)
[△辞退] ナカバヤシ(製本・アルバム販売)

◆都立蔵前高等学校外8校
落札金額 68,319,790円
[○採用] 光管財(ビル清掃)
[×落選] エースシステム(ビル清掃)
[×落選] リブネット(図書館サービス)

◆都立雪谷高等学校外8校
落札金額 55,476,861円
[○採用] 秀光(ビル清掃)
[×落選] エースシステム(ビル清掃)
[×落選] リブネット(図書館サービス)

◆都立武蔵丘高等学校外9校
落札金額 59,833,587円
[○採用] 秀光(ビル清掃)
[×落選] エースシステム(ビル清掃)
[×落選] リブネット(図書館サービス)

◆都立野津田高等学校外8校
落札金額 50,774,790円
[○採用] リブネット(図書館サービス)
[×落選] 光管財(ビル清掃)
[△辞退] 和心(ビル清掃)
[△辞退] ナカバヤシ(製本・アルバム販売)

◆都立拝島高等学校外8校
落札金額 82,208,500円
[○採用] 光管財(ビル清掃)
[△辞退] 和心(ビル清掃)

【2020年度・令和2年度】
入札経過 東京都財務局経理
◆都立忍岡高等学校外15校
落札金額 104,703,244円
[○採用] ナカバヤシ(製本・アルバム販売)
[×落選] エースシステム(ビル清掃)
[×落選] リブネット(図書館サービス)
[×落選] 秀光(ビル清掃)

◆都立大崎高等学校外13校
落札金額 101,559,122円
[○採用] リブネット(図書館サービス)
[×落選] 秀光(ビル清掃)
[×落選] エースシステム(ビル清掃)
[△辞退] ナカバヤシ(製本・アルバム販売)

◆都立町田高等学校外11校
落札金額 104,706,308円
[○採用] 光管財(ビル清掃)
[×落選] リブネット(図書館サービス)
[△辞退] ナカバヤシ(製本・アルバム販売)

 

【2019年度・令和元年度】
入札経過 東京都財務局経理
◆都立一橋高等学校外8校
落札金額 67,884,210円
[○採用] エースシステム(ビル清掃)
[×落選] ケーデーシー(事務アウトソーシング)
[△辞退] ナカバヤシ(製本・アルバム販売)

◆都立練馬高等学校外8校
落札金額 64,309,140円
[○採用] 秀光(ビル清掃)
[×落選] ナカバヤシ(製本・アルバム販売)
[×落選] ケーデーシー(事務アウトソーシング)
※秀光とナカバヤシが同点のため、くじ入札を行い秀光に決定。

◆都立富士森高等学校外12校
落札金額 88,151,760円
[○採用] 光管財(ビル清掃)
[△辞退] ナカバヤシ(製本・アルバム販売)

◆都立雪谷高等学校外8校
落札金額 9,578,736円
[○採用] エースシステム(ビル清掃)
[×落選] 秀光(ビル清掃)
[×落選] オーディーエー(スポーツ施設管理)
[△辞退] ナカバヤシ(製本・アルバム販売)

以上が入札結果である。現状を端的にまとめると以下の通りになる。

・ビル清掃業者が運営している案件が極めて多い。
・入札参加業者が特定の業者に限られている。

◆業者の特徴
過去3年間において、図書館サービス業務を主体とする参加業者は、ナカバヤシとリブネットだけだ。他は学校図書館と無関係のビル管理業者である。特に光管財、秀光、エースシステムという業者が幅を利かせている。これらの会社は、ビル管理業という名目で事業を展開しているが厳密にいうなら、ビルの清掃と警備員派遣をメインにしている。他には、消毒、害虫駆除、除草なども行い、近年は公立学校図書館事業の部署を立ち上げ業務拡大している。

入札参加企業の中には、グループ企業同士で同一の入札案件に参加しているケースもある。だが、これはグレーな手法である。法的に違法性はないが、公共事業入札では問題視されており、一部の自治体では条例や特例を定め、資本関係又は人的関係のある会社同士の同一入札への参加を禁止している。資本関係又は人的関係がある複数の者(同族企業など)が、同一の一般競争入札へ参加することは、公正な入札執行の観点から公平性が阻害される恐れがあるからだ。しかし、都立高校図書館業務委託では、そうした行為を禁止する規則はない。

これまで、異業種業者は入札価格を市場の健全な競争を阻害するレベルの最低価格まで下げて入札をしてきた。俗に言うダンピングという行為だ。これが、価格破壊を引き起こしてしまう最大の要因になってしまった。受注して旨味があれば、次年度以降も同様の手段で入札し、旨味がなければ去るという手段を採ってきた。

◆直接雇用への動き
2020年になると、東京都教育委員会は直営での直接雇用を復帰させる方向に方針転換した。2021年2月には、非常勤だが採用募集された。まだ一部の高校だけだが、数年かけて戻していくと思われる。これまでの都立高校の民間委託の実情は、求人募集が年中掲載される程の人手不足で、現場に定員人員を配置できない業務不履行も起きている。これらに関しては、実態を丹念に取材した、ジャーナリスト・日向咲嗣氏の記事がとても参考になり、一読する価値がある内容だ。

https://biz-journal.jp/2021/03/post_213281.html


また、何か動きがあれば記事にしていきたいと思う。

【補足】
●東京都入札情報サービスの使い方
[PC版]

www.e-procurement.metro.tokyo.lg.jp1. 入札情報サービスを選ぶ
2. メニューの入札(見積)経過情報を選ぶ
3. 必須条件の「物品等」にチェックを入れる
右にある「営業種目の一覧表」をクリック
「+委託・その他」を選ぶ
「+135事務支援」⇒「08図書等整理業務」を選択
中央にある「選択>>」をクリックすると右枠に項目が表示される
下にある「選択」をクリック
4. 必須条件の「開札(見積)日別選択」で確認したい月にチェックを入れる
5. 一番下にある「検索」をクリック
6. 検索結果が表示されます
[モバイル版]

www.e-procurement.metro.tokyo.lg.jp

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「物品」を選択
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※モバイル版は、業種営業種目を詳細に絞り込めないため、他業種の結果も反映されてしまい検索結果が多くなります。そのため、PC版の利用をお奨めします。